自閉症スペクトラムとは


自閉症スペクトラム(ASD: Autism Spectrum Disorder)は、対人関係が苦手であったり、強いこだわりがあるといった特性を持つ発達障害の一つです。
自閉症・アスペルガー症候群・高機能自閉症の傾向を総称して「自閉症スペクトラム(またはASD)」と呼ばれています。

自閉症スペクトラムが疑われる子どもの傾向・特性について
自閉症スペクトラムが疑われる子どもには下記のような傾向が見受けられます。
・抱っこやおんぶを嫌う
・周囲が「見てごらん」と指を差しても振り向こうとしなかったり、名前を呼んでも振り向かない
・一人遊びを好み、集団遊びを好まない
・キラキラ光るものや車のタイヤの回転をずっと眺めている 等
対人関係のコミュニケーションを好まず、単独行動時の集中力が極端に高いといった傾向があります。

こうした傾向の判断定義として、英国の児童精神科医ローナ・ウイングは「3つ組の障害」と定義しました。
1つ目は「社会性」です。
同年代の他者との交流の困難さや場の空気を読んだり、常識を常識としてとらえることが困難であることがあります。
また幼児期であれば、他者への関心が乏しかったり、人よりも物への興味が強いといった傾向もあります。
しかしこれらは発達しないわけではなく、ゆっくりと発達・変化していきます。社会的行動(お互いが快適に暮らすための立ち振る舞い)は教えることができますが、身につけ方の道筋=教え方のコツが違うということです。

2つ目は「社会的コミュニケーション」です。
一般的には、相手に何かを伝えるために言葉は覚えていきますが、自閉症スペクトラムの場合は、知識として獲得している言葉と実際に使う言葉にギャップがあったり、流暢に話している言葉の意味を理解していないといったこともあります。
また、話し方の単調さ、話題の偏り、エコラリア(反響言語)や相手の話を聞いていない、相手の言葉の自分が気になった部分のみに着目するなどもありますが、表れ方は様々です。

3つ目は「社会的イマジネーション」です。
目の前の現実にはない事柄を頭の中で操作する能力がイマジネーションです。物を並べる、集める、同じ行動を繰り返すなど“こだわり”と呼ばれる行動は、イマジネーションの偏りが背景にあります。
次に起こることが予想しにくいため、同じことをすることで安心できるということもあるようです。
目に見えないものの共有は難しくても、具体的なもの(実物・写真・絵・文字)などの情報が見える形であると共有しやすくなります。

またその他の特性として、何か要求がある時は他人の手首や指などを掴み行動をしてもらうという『クレーン現象』等、前述した傾向の他にも様々な傾向が存在します。

自閉症スペクトラムの子どもの感覚について
自閉症スペクトラムの子どもの感覚には偏りがある場合が多いと言われていて、あらゆる感覚に「鈍感さ」または「敏感さ」が生じる感覚過敏の場合もあるとされます。(ただし、感覚過敏だからといって発達障害というわけではありません。)

『聴覚』:工場の音や車の音、花火の音などは耳を塞ぐ程嫌がったりする一方で、隣の人が大声を出しても気にならないといったことや時計の針の音が気になって眠れないなどといったこともあります。
『視覚』:車全体よりタイヤの回る部分が気になったり、街灯の微々たる光が気になり眠れなくなることがあります。またパソコンの光等もまぶしく感じるといったこともあります。
『味覚』:味や温度、舌触りが敏感または鈍感であったり、特定の食べ物の味に不快感を覚えたり、反対に特定の食べ物しか食べないといった場合があります。
『臭覚』:香水や体臭など、特定の臭いを極端に嫌うことや反対に極端に嗅ごうとすることがあります。また自身の体臭は全く気にならないといったこともあります。
『触覚』:人から触れられることを嫌がったり、軽く触れられただけでも殴られたような感覚に陥ることや敢えて自分の頭を叩いたりなど、特定の感覚刺激を求め、自己刺激を行うこともあります。また手袋や靴下、衣類をまとうことを嫌がることもあります。
『温冷感覚』:熱いものや冷たいものを極端に感じてしまい、鈍感な場合は低温火傷、敏感な場合は多少の暑さでも冷房を稼働させないと暑く感じるといったことがあります。

このような感覚過敏は他者の理解を得ることがなかなか難しく、ワガママだと思われてしまうこともあります。

自閉症スペクトラムの子どもの想像力や記憶力について
自閉症スペクトラムの子どもは、自分の頭の中に浮かんだ物を工作や絵画といった場面で本物に近しく作り上げる等、凄まじい能力を発揮することも多くあります。
また記憶力についても、一度見た景色を鮮明に記憶し、繊細に表現したりとその記憶力は驚異的で、人の言葉(会話)もそっくりそのまま覚えてしまうということもあります。
しかしその一つ一つが頭の中で整理されていないため、その日に経験したことを答えられなかったり、ずっと前に起きたことがフラッシュバックしたりすることがあります。

自閉症スペクトラムの子どもに最適な環境とは
自閉症スペクトラムの子どもは「得意なこと」と「苦手なこと」が分かれており、「得意なことは伸ばす」、「苦手なことは手助けしてもらいながら徐々にできるようになっていく」という形でスキルを高めていくことが大切です。
苦手なことに対しては無理をさせず、本人ができないと伝えられるように、また「できない」と伝えられない場合も周囲は無理をさせず、小さな成功体験を積み重ね、自信と自己肯定感を育んでいくことが重要です。また療育施設だけでなく、そのような療育を家庭内でも行うことで効果が高まります。
「家族・周囲の理解」があることで、子どもは生活のしづらさを感じにくくなり、二次障害(後述)の予防にもつながります。
また自閉症スペクトラムの子どもは、特に人との関わり方を学ぶことが大切です。関わり方を学ぶ方法は主に、少人数での遊びや作業を通じ、活動のルールを学ぶ方法や集団活動でのコミュニケーション能力を身につけるという方法になります。


自閉症スペクトラムの子どもの対応について
前述の通り、自閉症スペクトラムの子どもには療育が基本となります。
療育は、子どもたち一人ひとりの特性・状態に合わせた支援のもと、子ども本人の力を最大限引き出し、将来の可能性を広げる手助けとなります。

自閉症スペクトラムの子どもは、臨機応変な行動を取ることは苦手なものの、反対に決まり事を守るのが得意という傾向もあります。
しかし、突然ルールが変更になったりする場合は理解が難しいため、あらかじめ変更する何日か前から変更を告げ、変更直前まで定期的にそのことを繰り返し伝え、本人が納得するように説明することが大切です。

また「報告・連絡・相談」の習慣を幼少期から積み重ねていくことで、「人に話してよかった」という経験を重ねコミュニケーションスキルを育んでいくことも大切です。コミュニケーションスキルを育む際は、子どもに対しての「声のかけ方」も重要です。
例えば、病院内で大音量でゲームをし、「人の迷惑になるからやめなさい!」と注意をしても、子どもは「迷惑とはなんだろう?何が迷惑なのだろう?」くらいにしか理解できず、最終的には怒鳴ってしまう方法で場を収めることになり、子どもにとってもマイナスになってしまいます。
そういう場合は「音が大きいと頭が痛くなる人もいるからゲームの音を無くしてね」等という言い方で工夫してみましょう。
怒鳴られても子どもとしては理解が追いつかず、「どうして怒っているのか」「何に怒っているのか」が明確に伝わっていなければ勿論納得はできません。「迷惑」というより、「これをやったら困ってしまう人がいる」というように伝え方を工夫してみましょう。
また伝えた内容を理解し、行動できた際にはしっかりとその行動結果を褒め、子どもの自己肯定感が育まれるように接していきましょう。
「怒らないようにする」ということではなく、「子どもが理解し、行動するための工夫」をしていきましょう。お子さんが少しずつ理解し、行動できるようになれば保護者側の気持ちも落ち着いていくはずです。
また上記の場面を事前に避けるため、「ここでは静かにする」ということを理由とともに事前に説明してあげることも大切です。

また言葉以外にも『絵カード』として提示するという方法もあります。
絵カードは発達障害に多く見られる視覚優位の子どもたちに特に効果があります。
絵カードにも種類があり、主に『指示カード、手順カード、スケジュールカード』というものがあります。
指示カードであれば「歯磨き」や「手洗い」など、子どもにしてほしい行動を絵で表現します。
手順カードであれば『歯磨き(歯ブラシを取る→歯磨き粉をつける→歯をゴシゴシする)』と言ったように、一つの行動の中に生じる手順をコマ送りにして絵に表します。
スケジュールカードは『今後の予定』をカードにし、順番に提示することでこの後の予定を視覚化し、わかりやすくするという方法です。
これは『ものの見える化』といい、絵を見ることで『この絵がやっている事は○○と呼ぶ』、『絵のやり方をすれば○○って事になる』、『この後はこの絵をやるんだな』という風に、自分がどの行動を取れば良いかが目で見てわかるようになり、絵を見ながら行動することができるので、実行に移しやすくなります。
しかし、最初から絵カードの通りに実行することは難しいため、『歯磨きカード』であればカードを提示しながら保護者自身が歯磨きをしてみたり、カードの意味を説明し、カードの内容と行動が関係あることを教える必要があります。だんだんと経験を積み、カードの通りの行動ができた際はしっかりと具体的に褒めましょう。『褒める』ことでその行動が正解だと理解できれば、絵カードの効果が更に発揮され、絵の通りに行動できるようになっていきます。
『カードを見せる→カード通りの行動ができたら褒める』という流れを辛抱強く継続して行なうことが大切です。 絵カードの他に写真カードの利用も効果的です。実際に使用しているものを写真カードにすることによって理解しやすいということもあります。
カードと一緒に言葉がけをすることも忘れないようにしましょう。

自閉症スペクトラムの子どもの二次障害の防ぎ方について
自閉症スペクトラムの子どもは、その特性を理解してもらいにくく、自身に関する失敗等のストレスが蓄積し、二次障害(精神面での不調、体の不調、問題行動など)を引き起こしやすいと言われています。
そうなるとますます理解を得る機会が減り、次第にストレスが増していくといった悪循環が生まれてしまいます。
そのため二次障害に繋がる前に、家族や周囲がその特性にできるだけ早く気づき、理解し、本人の生きづらさを軽減させ、その子に合わせた最適な環境作りを心がけることが大切です。可能な限りストレスを感じさせない環境づくりを整え、二次障害への対策も心がけましょう。

自閉症スペクトラムとはのまとめ
このように、自閉症スペクトラムは症状や特性に個人差があります。
「うちの子は自閉症スペクトラムなのではないか」「うちの子ももしかしたら…」と考えてしまうこともあるかと思います。
いかに早く気づくことができ、早期療育などの環境を整えられるかで子どもの将来は大きく変わってきます。少しでも気になる場合はお早めに、医師や専門機関に相談すると良いでしょう。


【参考文献】 ・子どものホームケアの基礎 ・すまいるナビゲーター ・発達障害情報ナビ